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おもしろい伝記『遠い崖』

本記事は2010年2月25日に掲載された記事の再掲載です。

『遠い崖―アーネスト・サトウ日記抄』は、大佛次郎賞を受賞した歴史家の萩原延壽の代表作。

朝日新聞に断続的に足かけ15年連載され、単行本14巻、文庫版14巻が、朝日新聞社から刊行されている大部の伝記です。 萩原延壽は東大法学部で岡義武教授に師事、英米の大学に長く留学したが、終生、大学に籍をおくことを断り続けた在野の歴史家で、2001年に75歳で亡くなりました。

 アーネスト・サトウ(Sir Ernest Mason Satow, 1843年 - 1929年)は、『一外交官の見た明治維新』の著者として有名なイギリスの外交官で、明治時代前期日本に係わる外国人キー・パーソン。 英国公使館の通訳、駐日英国公使、駐清公使を務め、英国における日本学の基礎を築きました。 日本滞在は、通算すると計25年間に及びます。
(なお、「サトウ」という姓はスラヴ系の希少な姓で、父の姓であり、日本人ではありません)

 第1回目の日本滞在の時期は近代日本の夜明けと重なる時期で、20歳代前半のアーネスト・サトウは、卓抜な日本語能力を生かして、伊藤博文ら明治の元勲となった薩長の若き志士達と親しく交流しました。 サトウが、横浜で出ていた英字新聞に「将軍は一番大きな大名にすぎない。法理論的に言えば、京都にいるミカドが将軍に統治権を委ねているだけだ」という論文を寄稿したところ、「英国策論」として翻訳されて倒幕運動を元気づかせたと、司馬遼太郎は座談会で語っています。 彼の的確な情勢分析が、幕末日本におけるイギリスの有利な外交的な地位確保に貢献し、後の日英同盟につながったといえます。

 アーネスト・サトウの日記と手紙を丹念に渉猟して、広い視野で書かれた『遠い崖』は、イギリス風の悠々たる伝記で、文章は味わい深く、学術性と文学性を兼ね備えた作品です。 テレビドラマの「龍馬伝」 や「坂の上の雲」 が話題になる今日この頃、幕末から明治にかけての日本史の転換期を、イギリス外交官の側からたどるのも一興と思い、古い本のことを紹介してみました。
(6組 佐藤記)
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コメント

[C1180] 読んで良かった本

 『遠い崖』について書いて下さってありがたい.天璋院篤姫についての大河ドラマがあって,その時この本について投稿しようかと思ったこともあったのだが,何となくやめてしまった.この本のオリジナルの出版の時には買わないままになってしまった.朝日文庫に入ることになったとき,確かひと月に二冊ずつ出たのだと思うが,出るのが待ちきれず度々本屋を覗いたものだ.読んで良かった,と思わせる本だ.

 私にとって,この本の魅力は三種類に分けられるように思う.

 第一は,サトウという人物その物への関心である.サトウは,日本の用語で言うならノンキャリアの立場からキャリア中のキャリア,駐日英国公使にまでなった人である.彼は資質が飛び抜けて優れた人であったのではない.しかし,限られた環境の中で常に誠実に努力を続けた結果が歴史の中に一定の成果を残した,その事実が我々に感動を誘う.一定の成果といっても,世界史全体から見れば見過ごされるようなことかも知れない.しかし,徳川幕府崩壊と明治維新という日本人から見れば近現代ではアメリカとの戦争とならぶ重大事件の証言者としてこのような人格の人物を得たことは幸運であったと思う.

 第二は,彼が属していたイギリスの外務省が示している「イギリス帝国主義」の行動のあり方について新たな目を開かせられたことである.イギリスは,インドを領土とし,中国に対してはアヘン戦争のごとき卑劣な行為を行っている.しかしそれはすべて,彼等流に紳士的な論理をつくした結果なされただけなのである.一例として,日本に対して治外法権を要求してそれを確保したことは,日本人から見ると許し難い圧力なのだが,彼らからは,国際的に通用しうる法律を作って施行していない野蛮国においては自国民を保護するために当然の要求なのである.日本でもその他の国においても治外法権を要求したことは何の悪でもあり得ない.イギリスの現代の外交術(西洋諸国の外交術)とその当時の外交術には,特に断絶はないのであろう.
 外交というもの.西洋では数百年の切磋琢磨の結果身につけたその技を日本人は今必死に追いかけている.

 第三は勿論,外国人の目から見た幕末期,明治初期における人々の様態である.みんな,みんな,若かった! 二十代,三十代,四十代の人間ばかりだ.こんなことを書き出したら,切りがなくなる.

 考えると,この本の魅力はもう一つあった.それは,著者萩原延壽氏の研究者としての篤実さをしみじみ味わうことである.私自身も研究者の端くれであった.しかし,萩原氏がこの本で示している研究対象への迫り方には,「敵わないなあ」という嘆息が漏れてしまう.持って生まれた資質とか,研究のために置かれた環境を口実にするのは簡単だ.しかし,私がもっと良い頭脳を持って生まれ,研究に最適な環境を与えられたとしても,この本に示されているような努力を自分がするとは到底思えない.
 だから私は,浅田真央さんのスケートを見て自分とはかけ離れた能力を賛嘆するのと同じように,萩原氏の果たした成果に心からの賛辞を送るのである.
     二組小林
  • 2010-03-01 01:16
  • 二組小林
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[C1179] 二箇所の

不注意をお詫びして訂正いたします。
 ※「近代日本史・陰の主役達たち」→ 「、、、陰の主役たち」
 ※ 高山彦九浪 → 高山彦九郎    
                                    9組小林  
  • 2010-02-28 09:43
  • 小林
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[C1178] 興味深く拝見

大変な量でしょうから、早くも既に臆しておりますが、大変に面白い読み物のようで大いに関心を持ちました。
やはり古いお話になりますが、かつてのNHKのテレビ番組「人間大学」での、三好徹という人の「近代日本史・陰の主役達たち」という講座のテキスト(平成8年7月1日発行)に、このアーネスト・サトウとその著書「一外交官の見た、、、」のことが出ていました。
中井桜洲、新田俊純、その娘で後に井上馨夫人となった武子(元新橋芸者雪葉)、高山彦九浪の門人であった金井之恭(前出の新田俊純は、彼にかつがれて尊皇の新田義貞の子孫として新田勤王党を旗揚げしたりもした)、小栗上野介、、、と、上州住まいの者として、ちょっと興味を持ちたくなった人々にも触れるついでの紹介で、その著書にしばしば登場するという中井桜洲(イギリス公使パークスを攘夷派の刺客二名を斬って救い、ビクトリア女王から謝意の剣を贈られる)と雪葉(武子)との縁、さらに井上を巡る経緯に触れて、また話題?は次々と移って行きますが。
書かずもがな、をつい長々と恐縮。ご紹介、ありがとうございます。9組小林

  • 2010-02-27 13:06
  • 小林
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