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とぼとぼと馬車馬のごとくー15 クルマエビ

 前回、牡蠣尽しに触れたので、さらに広島時代経験した魚介類の尽しを思い出すことにした。
 本題に入る前に、改めて考えてみると、わが国には「尽し」料理が多いことに気が付く。いつか触れることもあろうが、例えば、トータル9年ほど住んだ伊勢地方には、ウナギ専門店のほか焼き鳥専門店もあった。初めて、伊勢市郊外の玉城町に着任した折、引っ越し荷物の片づけが終わらないので、電話帳で近くのうなぎ屋を見つけ、うな丼を注文したまではいいのだが、待てど暮らせど来ない。子供たちも待ちくたびれ、いい加減、お腹が空くし、再度、電話したところ、「今、焼いてますので」ときた。信じられないかもしれないが、専門店は、注文を受けてから、おもむろにウナギを割き始める。当然、焼きも3度、4度。ご飯も新たに炊いて、となると、最低一時間余はかかる。それからは、お客さんに出すときは、「三重では、うな丼の注文を受けてからウナギを捕まえに行くものでーー」と言い訳した。焼き鳥屋のほうは、アメリカからのお客さんの接待(何度も書くが、研究所には基本的に接待費はない。従って、アメリカからのお客といえども、すべて個人負担。貧しい公務員では立派な高いお店には連れていけない)によく使わせてもらった。もちろん、焼き鳥のフルコース。最後は、焼き鳥丼で締める。品数は十品ほど。ただ、最初の頃に、スズメの丸焼きが出るのが問題であった。真っ黒な小さなイエスの磔像のようで、乱暴なヤンキー達もしばし無言。冗談ではあるが、私がアメリカに行くと、面白がって、鳩の丸焼きとか、ブルークラブ(日本のワタリガニのようなもの)の店とかに連れて行ってくれる。どちらも食べるのに手間がかかる。仕返しには、サンマ定食とかメバルの煮つけ、アユの塩焼きの店に連れていく。欧米人で、骨付きの魚を美しく食べられる人は少なく、魚食は一種の出自の証明にもなっている。


続きをクリックして後半をお読み下さい)


さて、本題に戻る。山口県の秋穂といえば、細かい砂の干潟が広がるクルマエビの名産地。そこに山口県の水産試験場があった。秋穂にはクルマエビの養殖場もあり、クルマエビの病害防除の関係で何度も訪れた。当時の県の魚病担当者は、大学の一年後輩でもあり心安くしていた。ある時、宿舎で夕食を共にしていると,膳を見るなり、「秋穂はクルマエビの名産地なのにエビ料理は貧相ですね。冷凍エビなんか出して」と不満そう。ついで、「明日の昼、クルマエビ尽しの店にでも行きませんか?」「それはいいけれど、高いのでは?」と聞くと、「それほどでも」とのこと。喜び勇んで昼ごはんに「クルマエビ尽し」を試みた。場所は、秋穂の街中の平屋の民家。ただ、入り口には小さいけれどきれいな庭があり、建物の真ん中にも中庭がある。中庭に面した明るい日本間に通されるとすぐに料理が運ばれてきた。仕事中でもあり、酒なしの日本料理は時間の配分に困る。相手は全くの下戸。平然と、お茶だけで食べ始める。まずは小エビの突き出し。「ねえ、これは天然もの?」「いえ、養殖ものです。このサイズは魚釣りの活き餌として需要があり、そのために生産してますので」「釣り餌を横取りしてるってこと?エビで鯛を釣るってホントだね」「もともと、天然のエビは魚の餌。それを我々人間が横取りしてるのだから」彼は、学生の頃から、なにか悟りきったようなことを言う。2種の突き出しの後は、クルマエビの刺身、頭胸部と腹側の脚、尾びれ付き。ただ、筋肉部にはきちんと包丁が入っている。まだ、触角、脚が動いており、まさに活き造り。「色がきれいだね。英国人に見せたら、また、残酷なんて騒ぐかな」「うちの女房も、魚の活き造りも嫌いますから」「でも、エビは死んでしまうと、一秒ごとに味が変わってしまうから。こんな甘いエビの刺身は、生きていないと」「そうなんですよね」「頭胸部をつけるのは、飾りではなく頭胸部にある中腸線(人間の肝臓のようなもの)を食べさすためでしょう?」「そうですけど、そこまで食べる人は少ないです。刺身を食べた後は、残りを味噌汁に入れて出すこともあります」「うん、エビ、カニのガラはいい出汁が出るからね」「今日は、店のほうで、エビの吸い物を用意しているから、このガラは素揚げにしてもらいましょうか?」「いいね!」次は天ぷら。「これはおいしい!生きているエビをすぐに揚げているから」「ご存じの通り、クルマエビは刺身材というより、この天ぷら素材としての需要に支えられてきたものですから。これが本来の養殖クルマエビの使い方なんでしょうね」「そうだよね。日本人は妙に凝るというか、ウナギなんてうな重サイズが基準だから。いくら何でも、料理の器に合わせた養殖なんて」「最近はやたらと大きいサイズのエビのフライとかが流行っていますが、魚介類にはおいしいサイズってありますよね」「ああ、本マグロだって、身の白いヨコワサイズも美味しいし、成魚の30~40キログラム以上も美味しいよ」「ブリも同じですよね」「うん。シマアジは1~2キロサイズかな」次は煮物とフライ。「エビ、カニはゆでた色が美しい」「本当に」「茹でエビを食べる風習は世界中にあるけど。例えば北欧のザリガニ、テナガエビ。欧米のシュリンプカクテル。でも野菜と彩りよく炊くなんて見たことないな」「スペインの米と炊くのは?」「パエリヤだったっけ?確かにエビも入ってるけど、その他大勢って感じ」「フライは親エビを使うんだ」「これは冷凍ものだと思いますよ」「そうだね。養殖では親エビサイズまでは育てないから。産卵後の親エビを冷凍保存したのかな。この店くらいになると天然ものかもしれないけど」「まだ、しっかりうまみが残ってるから天然ものでしょう」次いで刺身のガラの素揚げ。「これは、なんか、はかない食べ物だけどおいしいね!いい酒の肴だ」「こうしてカラっと上げるのも腕ですよね」「次は焼き物かな?」鬼ガラ焼きと串焼きの登場。「東南アジアではエビ、カニはまず焼きが基本だよ。焼いたほうが味が濃くなる」「なんかもったいないような気もしますがね」次はエビのお澄ましと握り。「この吸い物、エビ出汁がきいているから、出汁は別にとって、後で具を合わせたんだろうか?」「握りはおいしいね。普通は、軽く甘酢を通してるようだけど、この生もいいね」「手まりもいいですね。もっとたくさん食べたいけどーーがいいのかも」デザートは柿とミカンのミックスフルーツ。「柿もミカンもここらで摂れるの?」「ええ。今日食べたもののほとんどが地元産です」「山口は瀬戸内海と日本海に挟まれ、海の幸に恵まれているし、いいところだね」「これで、住んでる人間さえよければっていうんでしょう?」「いやあ、人間もいいよ!」楽しい小一時間の昼食だった。
 このようにクルマエビを中心とした「尽し」料理を食べると、本当にクルマエビの実力が良く分る。エビは世界中で食べられており、伊勢エビのような殻の固いものや、クルマエビのような殻の柔らかいものなどを含めてもクルマエビに勝るおいしいエビはない。例えば、最近、出回っている、いわゆるブラックタイガーやバナメイエビなどと比べても、色のうつくしさや味の良さ、どれをとってもクルマエビのほうが優れている。嘘のような話だが、昔、商社に勤める私の友人は、スペインにえびの買い付けで出張した時、スペインの内陸部では生きた鮮度のいいエビは非常な高値で取引されているのを知り、日本から生きたクルマエビの輸出をすることにしたそうである。日本が開発したクルマエビの種苗生産技術、養殖技術には、生きたままのエビの輸送技術も含まれている。

(松里記 9組)
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コメント

[C2011] ありがとうございます

日本近海のアミはプランクトンなのですね。
「素干しプランクトン」を使い終えたら、今度こそ良いダシの出る「干しエビ」を買おうと思います。
  • 2020-12-16 08:25
  • 9組 中沢
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[C2010] オキアミはプランクトン

ご質問ありがとうございます。プランクトンは便宜的分類で、本来の分類学とは異なります。
海洋学でいうプランクトンにはオキアミ(南極のオキアミは殻長10センチ弱)が入ります。 したがって、小さな日本沿岸のアミ類はプランクトンです。ついでにネクトンにはクラゲなどが入ります。

  • 2020-12-15 22:08
  • 9組 松里
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  • 編集

[C2009] アミはプランクトン?エビの仲間?

こんにちは。いつも拝読しています。
知らない世界のことを伺うのは興味深く、楽しいひと時です。
ところで、「白菜や青菜のクリーム煮」を作るのに、エビのダシが必要になり、検索して三陸産の「素干しアミ」なるものを通販で買いました。小さな姿ですが、風味と香りはエビそのものです。
カルシウムも豊富?で、いろいろな料理に手軽に使えそう。ただ、ダシとしては淡泊な味なので、チキンスープを加えました。
さて、アミはプランクトンの仲間?それともエビの仲間なのでしょうか?
  • 2020-12-15 16:25
  • 9組 中沢
  • URL
  • 編集

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