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とぼとぼと馬車馬のごとくー18   法廷へ

 焼き物については、唐津焼、薩摩焼以外にも、沖縄の離島焼(パナリ焼)、壺屋焼
有田焼、砥部焼その他、主に西日本の古い焼き物から、広島の安芸焼など新しい焼き物まで多くの窯を訪ね、いろいろ見分を広めた。その間、訪日した外国の研究者たちには、飾り物でなければ(つまり、帰国後、家庭で実際用いるのであれば)デパートの食器売り場を紹介した。実は、後に海外の仕事が増えてくるが、日本のいわゆる食器のレベルは、間違いなく世界一のレベルであり、値段も驚くほど安い。飾り物の陶磁器は、美術品なので、買う人の感性で選ぶほかない。私にとっては、古びた蛸壺が数十万円の陶器より魅力的なのは、何故?と、聞かれても答えようがない。強いて言えば、古い蛸壺を見ていると、岩場近くの砂泥の海底をゆっくり泳ぐタコを思い浮かべることができるし、そのためか、いつも音のない、静かな安らぎを感じるから。後のことになるが、12回の転勤で滞在した各地の陶芸の展示会や、陶磁器展には自然に足を運ぶことになった。何度も行っているうちに、心に響くものは数百点もの展示物の中でも数点しかないということも分かってきた。例えば、日本海側の中核都市での陶芸展では、あるデパートの食器売り場のとなりの催事場で県下のほとんどの窯元の作品が集められていたが、小麦色の壺は青磁を作る際の発色の失敗作と思われるし、抹茶碗のゆがみも偶然の結果ではないかと思われた。確かに、偶然の産物の中には心惹かれるものもあるが、それを作品と呼べるのだろうか?結局、展示場での滞在時間は10分ほど、後は隣の食器売り場をゆっくり眺めて帰った。


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広島の13年間の中で、印象的であったのは、初めて裁判所に証人として召喚されたことである。もともと、魚病診断には「鑑定」が含まれている。例えば、切り身、刺身の中にへんな塊があるとか、寄生虫のようなものがいるとか、お皿に乗ったままの物が運ばれてくる。また、池のコイが一晩で全滅したとか、家の金魚がおかしいとか、種々雑多な相談が持ち込まれてくる。忙しい時に、迷惑ではあっても、小さな異常が大きな伝染病の最初の発見につながることもあり、一概に無視することはできない。実際、後で大きな産業的被害につながる、例えば、マダイの線虫症とか、ヒラメなどの稚魚のスクーチカ症などは、漁民の一人が持ち込んだものが発見の端緒であった。

 忙しくしていたある日、例のクルマエビ尽しの県の担当者から不思議な電話が掛かってきた。「ねえ、松里さん(かれは大学の一つ下の後輩)、話すべきかどうか分からないんだけれど、気になるものでーーー」ベテランの県の担当者からのこの種の電話は要注意。彼らには、日々の現場での経験で自然と鋭い「勘」が育っていることが多い。「何が変なの?」「クルマエビの種苗生産場で大量斃死が起きたんだけど、いま流行っているウイルス病とはちょっと違うところがあるようなんだけどーーー」「あなたはクルマエビの病気の第一人者なんだから、あなたが違うといえば違うんでしょう?」「第一人者だなんて!ひょっとすると大事になりそうないやな予感がするものでーーー」何とも歯切れの悪いこと。電話で分からないときは、ともかく現場へ。当時の魚病学のレベルでは、常に新しい病気の発生も考える必要もあり、また、もたもたしていると、病気の痕跡すらなくなってしまう。クルマエビの種苗生産場は大規模で、最初から企業経営なので、シーズン中、何度も種苗生産を繰り返しており、少しでも調子が悪いと、生産中の種苗をすべて殺傷し、生産池を消毒して、新たにゼロから始めるため、大量斃死を起こした病群すら見ることができなくなってしまう。駅からの車の中で「松里さんは農薬の水産生物への被害の研究をされていましたよね?」「うん。内水面からの異常の報告のほとんどが農薬がらみなもので」「エビについてはどうですか?」「今まで数件あったよ。ほとんどは有機リン剤の空中散布が原因。第一、エビは節足動物だから殺虫剤は、即、殺エビ剤さ。ただ、クルマエビの農薬感受性に関する知見は乏しく、よく分からないところもあるけど」「稚エビの知見は?」「あまりないな。ただ、標準生物のコイに比較すると、信じられないほどの低濃度で死ぬよ。PPMどころかPPBとかPPTのレベルだよ」「それじゃあ、農薬かもーーー」彼の話では、当初、当時流行していたウイルス病による大量斃死と思われたが、池ごとの斃死状況からどうもウイルス病以外の要因が関与しているようにも思えるし、経営者は町が行った害虫駆除が原因と怒っており、訴訟も辞さないとのこと。訴訟となると、県の職員としては、非常に困った立場になる。「松里さんに無理なことをお願いすることになるかもーーー」「仕方がないよ。ともかく現地調査をしなくては」覚悟を決めて現場に入る。

種苗生産施設は、広い土地に、広大なハウス(ガラスの温室に似ている)とたくさんのコンクリート池からなる。事務所で経営者から斃死状況を詳細に聞き取りその、その後、各池を回る。ほとんどの池は空であったが、ひと池だけ手を付けず残しておいてくれた。池の中は稚エビが多量に死んでおり、生き残った稚エビを別の容器に入れ観察するが、いずれもおかしな動きをして死んでいく。さらに外に出て、用水施設、給水口などもみたが、その時、何気なく、「隣の広大な敷地はなんなの?」「町の埋め立て地だけど」「粗大ごみとか建設廃棄物なんか?」「いやあ、生ごみも捨てているよ」「え、生ごみ!」この時点で少し嫌な予感もする。ついでに、隣の埋め立て地に行き、おもに水際付近を調べてみる。埋め立て地は石を積んだ堰堤で仕切られてはいるが、海水は出入りしており、密閉度は低い。歩いているうちにいくつもの空いた石油缶がみつかった。それらはすべて有機リン剤が入っていたもの。「なんなのこれ!」「こんなところに捨てて!」写真を撮ったり、埋め立て地の境界の海水を採集したりしながら、今回の大量斃死の原因を推理していく。一応現場での「病理仮設」は、1、エビの斃死の状態が、既知のウイルス病とは異なること。2、ある期間、何度かの斃死が起きていること。3、斃死が起きていた期間、町では害虫駆除のための有機リン剤の散布が地区を変え行われていたことなどにより、ウイルス病よりも有機リン剤など他の要因が疑われること、となった。その後の調査で、隣の埋め立て地にもハエなどの発生を防ぐため、有機リン剤を散布し、さらに空の容器も埋め立て地に廃棄したことも明らかとなった。町の説明では、害虫駆除は毎年同じように行っていること、埋め立て地のハエの駆除は住民からの苦情に答えたものでその年だけとのこと。「仮説」の検証のためには、種苗生産池の用水に稚エビを殺傷するに十分の農薬が含まれていることを実証すればよいのだが、稼働している施設の用水は常に替わっており、再現実験も困難である。できることは、稚エビの農薬に対する感受性試験と、埋め立て地からの汚染の可能性の検討くらいであった。当時は研究所にも水試にも超微量な農薬の測定装置はなく、仕方がないので、農薬メーカーの研究所に分析を依頼した。

 そうこうしているうちに、経営者が民事訴訟に踏み切ってしまった。そしてある日突然、原告側の弁護士二人が訪れた。すったもんだの末、原告側の証人として出廷せざるをえなくなった。断れば、裁判所からの招へいも辞さずとのこと。何度かの打ち合わせののち、いよいよ地裁の法廷へ。原告側の弁護士からの質問は予めの打ち合わせ通りなので問題はない。いよいよ被告(この場合、地元A町)側弁護士の質問(本当は尋問)が始まった。最初は私の学歴、経歴などの質問だったので和やかに(?)始まったが、駆虫剤がいかにエビにとっては危険であるか、について激しい論戦になった。例として、25メートルプールにマッチの先程の駆虫剤を入れると、その濃度でもエビは全滅する、と説明したことについて「非常識」と言われた。そこから「常識」とは何か、の議論になってしまった。結局、この裁判は結審することなく、和解で終わったが、初めての経験でもあり、強く印象に残った。この種の経験は、後に、中央の公害等調整委員会の専門委員に任命されたときに役立った。

(松里記 9組)
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