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とぼとぼと馬車馬のごとくー20                       渡米前

 タイの若い研究者との遭遇は、その後、40年間続く長い付き合いの始まりとなった。私自身も、その後、何十回もタイを訪れたし、タイの研究者たちもたくさん来日した。その間、悲しいことも経験した。第一回目の研修参加者のうち、後に京都大学に留学し、博士号の学位を取得した優秀なC君は、帰国後、すぐに交通事故で亡くなった。事故後しばらくして、その事故現場を訪れた際は、涙で顔を上げることができなかった。はにかんだような笑顔、こちらが困ったときなど、ニコニコしながら「先生、ちょっと違うね。こうしたほうがいいよ」と助けてくれた彼を急に思い出したから。事故現場は、前回触れたハジャイーソンクラ間の幹線道路の側溝だった。母親と二人だけの家庭で、まさにこれから、というとき亡くなってしまった。同乗していた母親ともども亡くなった。心から彼とお母さまのご冥福をお祈りしたい。タイの事については、これからも何度か触れることになると思う。タイ訪問の後は、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどの東南アジア諸国を訪れることになるが、これらは広島を離れてからの事であり、後でFAO時代の時にでもまとめて紹介したい。

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広島時代13年間には、公私ともにいろいろあったが、仕事では、西日本における海産魚介類の養殖の急速な発展に伴い海産養殖魚介類の疾病に関することが中心となっていった。ちょっと変わったところでは、突然、スッポンの病気が持ち込まれたことがある。最初は、広島県の内水面の試験場経由だったと思うが、担当者から「ねえ、養殖スッポンが大量に斃死しているらしいので、一緒に行ってもらえませんか?」の電話。「私は、一応はスッポンの病気のことは文献などでは知ってはいますが、実物を見たことも触ったこともなく、まったくの素人でお役には立たないと思いますよーー」「でも、あなたなら何かわかるかもしれないしーーー」「第一、なんで爬虫類まで水産なの?そんなことを言うならアヒルも水産?」何とも八つ当たり気味。それでも、ともかく現場へ。いちおう軍手は二重に、と用意した。現場は、山間の傾斜地。ビニィール被覆の温室が数棟建っている。あたりは染まるような緑。時折やぶ鶯も啼く。「良いところですね。札幌では原始林が遊び場だったので、このようなところに来るとホッとします」と言いながら温室の中に。入った途端、強烈なアンモニア臭。目が痛くなる。加温式スッポン養殖との初めての出会い。「なんでこんなに臭いの?」「うちは、台湾の飼育方法なのでーー」「台湾だろうと何だろうと、こんな環境で生き物が健全に育つわけがないよ」「じゃあどうしろというんですか?」「少なくとも、アンモニア臭のない水で飼うべきでは?」生物学的常識と業者の経験的飼育方法との衝突。
養殖業者といっても私より2,3歳上。こちらも若かったので、つい、言い合いとなる。「じゃあ、分かりました!このハウスの池二つ使って、片方は、あんたの言うようにきれいな水で飼いましょう。もう一つは今までの方法でいきますよ。ひと月後の生残率でくらべてみましょう!」と、A氏。発症池のスッポンを適当に分け、試験的飼育開始。持ち帰った病気のスッポンは、そのまま病理検査へ。スッポンにはそれまで魚に通常使っていた麻酔薬は全く効かず、エーテル、アルコールもダメ。暴れるので生きたまま解剖もできず、低温なら少しは静かになるかと思いビニィール袋に詰めて冷蔵庫へ。翌朝、まだ冬眠(?)しているスッポンを素早く解剖。慣れないことは何事も大変。それでもようやく、今回の病気は皮膚と肺に病変が認められ、皮膚の病変は噛み傷由来と思われた。2週間後、中間での比較と思い、再び現場へ。養殖業者のA氏は、私の顔を見るなり「参りました。やはり研究者にはかないませんや」と。きれいな水で飼われていた池は無事。通常の汚い水で飼われていた池はほぼ全滅。かくて研究者の権威はかろうじて保たれたが、実は、後で斃死が多かった池の生残スッポンを調べてみると、前回の調査とは違う病気が発見された。多分、比較飼育のため取り上げた際のストレスや傷で別の病気に感染したらしい。ともあれその後、A氏とは年も近いので仲良くなり、それまでなかったスッポン用の配合飼料を開発したり、スッポンの骨異常の発見から、それまでの飼育方法や飼育施設の改良まで行った。
 
 その頃、養殖場での病害の多発を防除するために、水産薬の開発が急速に進んだ。そうは言っても薬の市場は小さいので畜産に対応した「動物薬」の一部にすぎないが。もともと海産魚の病気の専門家が少なかったこともあり、水産薬の「薬事」(薬理ではない)も担当させられた。何度も書くが、ますます忙しくなる。「薬事」関連の会議は原則、東京で行われるため、毎月1~2回上京。当時はまだ、航空機での出張は認められてなかったので、ほとんど国鉄。いくらまだ若いとはいえ、長時間立ちっぱなしはこたえるので、出張前に必ず座席指定券を確保することにしていて、購入は、研究所の最寄りの小さな駅の窓口で。ある時など、北海道への出張のあと、すぐに鹿児島へ出張することになったが、駅員から「あなたは指定券を買う役目なの?」と聞かれる。購入の頻度があまりにも多いためか、そのうち、寝台車などが満席でもなんとか融通してくれるようになった。ある時は、研究所の総務課から、「あなたは、ここのところ、月に2日しか出勤してないですよ。出勤簿が出張印で真っ青!」誰も好きこのんで出張なんかしたくない。第一、疲れるし、実験はできないし、研究も進まない。かといって、特別研究などの報告はきちんと求められる。自分の分担である「海区」の魚病班は、当初、数名でスタートしたが、10年余の間に、5~60名の参加者となっていた。大成功!なんて喜んでいられない。国の研究所側は相変わらず私一人なのだから。このころ、本庁を中心に、全国の研究体制の検討が進められ魚病研究を含む水産増養殖研究の強化が言われ始めていた。いくつかの研究所を統合して新しい「増養殖」の専門研究所を作ろうというもの。趣旨は結構だが、大幅の増員なしの構想は、スクラップされる「財源」が必要ということ。何やらにわかに身辺が騒がしくなり始めた。

 そんな折、また、隣のF室長が「あのな、俺もそろそろ転勤らしい。いろいろあって長い間、瀬戸内海においてもらっていたのでーー。ところで、あんたなあ、短期でアメリカに行ってこいや。で、書類上「英検」を受けてくれよ。書類は取っておいてやったから」「短期って?」「うん、3か月だ」「でも、忙しいのに3か月も出してくれますかね?」「あんたには、将来、増養殖を引っ張って行ってもらわないと。多少のごたごたは仕方がないさ」「先進国で見分を広める、は良いけれど、アメリカは水産の先進国でしょうかね?養殖も牡蠣以外は見るべきものもないけど」「魚病の世界では?」「確かに、何人かの世界的専門家がいます」「それで行こう!」なにせ、元海軍将校は決断だけは早い。あまり深くも考えず、その場はそれで終わった。
(9組 松里記)
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