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- 知の回廊に佇んで -

(この記事は2008年3月1日に公開した記事の再掲載です。下のコメントもお読み下さい)

 1999年4月。シベリア上空から見た大地は真っ白であった。桜も散り春真っ只中の東京からみるとシベリアは厳冬の真っ只中にある。これがツンドラの大地かとしばらく白い大地を眺めていた。短調な眺めが何時間も続くと感慨も薄れ、これから訪ねるドイツについて、資料を見ながら考えているうちにウトウトと眠りに入ったらしい。ふと気が付くとドイツ上空を飛んでいて、間もなく到着する機内アナウンスが流れていた。

入学式の翌日から法学部長の教授とドイツへ出張することになった。用件は桐蔭メモリアル・アカデミウムに収蔵を予定している古刊本の保存管理について、高度なノウハウを有するヘルツォーク・アウグスト図書館(Herzog August Bibliothek)、マックス・プランク研究所(Max-Planck-Institut)、ドイツ最古の大学であるハイデルベルク(Heidelberg)大学の図書館、当該の古刊本が収蔵されていた館ならびに貴重な文書等を保管する展示ケースで世界的に定評のある会社の訪問および関係資料の収集手配等である。

 ヴォルフェンビュッテル(Wolfenbüttel)にある「ヘルツォーク・アウグスト図書館*1」は文献調査の利用だけでなく一般(観光客)の人の見学にも開放されていた。ここでは本が美術品のように展示して鑑賞するという扱いを受けている。なるほど活字で印刷される以前の手作りの本は一文字一文字が手書きで装飾が施されていて美術作品そのものである。活版印刷のグーテンベルグがドイツで誕生したのもわかる様な気がした。最初に入った部屋は吹き抜けの高い天井でその壁面いっぱいの書棚には入室者を圧倒する量の古い装丁の本が並べられていた。壁面の二階部分の回廊スペースは文字通り「知の回廊」とも言うべきに相応しいところである。古刊本の保存管理上からか光量を落とした雰囲気には人類の知の遺産を守り伝えていくという確かな意志を感じさせるものがあった。    

この部屋に隣接して作られた部屋の扉は分厚く明るさは5ルックス程の薄暗い中でさらに展示ケースに入れられて厳重に本が管理されていた。この図書館の中でも最重要な部類の本であるらしい。ケース内の本は見開きで展示されていたが、開くページは頻繁に変えているとのこと。光に対してかなり気を付けていることを直接肌で感じることができた。このような状況はマックス・プランク研究所*3でも同様で環境の変化にはかなり注意されていた。本の前に立つとその付近が明るくなり離れると照明が消えるようになっていた。紫外線、赤外線による紙への影響を考えているとのこと。より貴重な本は空調管理のされた部屋の中の更にカギがある書棚に保管されて、特別に許可された人が利用する場合でも部屋からの持ち出しはできないとのこと。ハイデルベルク大学図書館*2でも貴重本の管理、閲覧には厳しい制限があった。熱心に机に向かっている学生を見ながら歴史の長さと文化の伝承に取り組む姿勢を肌で感じた。

現地に行かなければ気がつかなかったことの一つに湿度に関する管理がある。日本であれば本の管理では除湿に注意するところであるが設置されていたのは加湿器であったのには驚かされた。根底にある微妙な感覚の違いを知らされた。また、古刊本の修復には日本の和紙が使われ、和紙の素晴らしさをドイツの修復の専門家から聞かされるとは思わなかった。

訪独のもう一つの目的である法学に関する資料収集のためにドイツ北西部の町ミュンスター(Münster)の古物商に立ち寄った帰途、ライン川沿いを走る列車でフランクフルト(Frankfurt)に戻ることにした。車窓から見る古城は中世をしのばせる風情を漂わせていた。ローレライの難所もあっという間に通り過ぎたが、教授の広くて深い理解を背景にした説明に充実した一時を過ごすことができた。今回の訪独は私にとって、暫し知の回廊に佇む思いを抱かせる旅でもあった。この記事は当時の海外出張リポートとして、いわゆるオモテ(仕事)の報告を中心に書かれているものをブログ用に一部加筆修正しました。(2組 鎌田)

ドイツ地図 http://maps.google.co.jp/maps?q=muenster,+Germany&sa=X&oi=map&ct=title

*1ヴォルフェンビュッテル Wolfenbüttel州立ヘルツォーク・アウグスト図書館 Herzog August Bibliothek
ヘルツォーク1

http://snnantn.blog115.fc2.com/blog-entry-55.html
(Hannover, Braunschweig の近くの小都市にある)


*2ハイデルベルク大学は、1386年に、選帝候ルプレヒト1世により設立されたドイツ最古の大学。知の宝庫と言うに値するのがこの大学図書館である。
ハデルベルグ2 マックス3
*3マックス・プランクは物理学者、量子仮説を提唱し量子力学への道を開いた人で、1918年ノーベル物理学賞を受賞している。今回訪問したところは全土にあるマックス・プランク研究所の中の人文科学部門の研究所の一つで、フランクフルトにあって「ヨーロッパ法史研究の中核的存在」と言われている。
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コメント

[C850] 同載されていた、URLをクリックしてみました

- 知の回廊に佇んで -を再度、精読してみました。 そして、ヘルツォーク・アウグスト図書館の写真の下にあるURLの中を覗いた処、世界の図書館の写真の迫力に圧倒されました。 アンティーク好きのオレとしては、日本には無い、重厚で落ち着いた雰囲気に、電撃の様に打たれました、痺れました! それと、欧米の歴史の深さと厚さとを称え、日本の貧弱さを嘆くコメントが多い中に、「欧米のソレが豪華なのは、一握りの貴族達が”智”を独占して来たから。 日本は、江戸時代から版木本が庶民のモノとなり、当時の識字率は、世界では異常なほど…」と云う一文を見つけて、溜飲を下げました。  (長沼 10組)
  • 2008-03-02 09:44
  • 長沼
  • URL
  • 編集

[C848] 温故知新

 鎌田さんから大学設立のために奔走された当時のおはなしを聞き、また、お忙しいなか大学校内をご案内いただきました。まさにに知(智)の回廊、アカデミックな佇まいのキャンパスを歩いてはるか昔の大学時代を思い出しました。
 お勤めの大学はここに紹介された図書館をまさにそのままに復元されたんですね。改めて認識いたしました。こんな素晴らしい環境の大学で学ぶ学生さんは幸せですね。

 「グーテンベルグの活版印刷」という歴史のどこかで聞いたような事柄が語られていて懐かしかったです。われわれはガリ版の世代、子どもの頃も仕事に就いてからも暫くこの印刷技術が主流でした。蝋原紙に鉄筆、ガリ版板で原稿作成していました。赤ちょうちんで飲んで遅く帰ってもこの蝋原紙に向かって、明日の指導案・教材資料づくりに夢中になっていたことが昨日のことのようです。(8組 柳川)
  • 2008-03-01 09:58
  • 柳川
  • URL
  • 編集

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